スィールの娘/エヴァンジェリン・ウォルトン 著
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(2016年読書感想16冊目)
この本の概要
著者 エヴァンジェリン・ウォルトン
本(作者)の国籍 アメリカ
訳者 田村美佐子
イラスト 牧野鈴子
出版社 東京創元社
レーベル 創元推理文庫(灰ラベル)
ジャンル 神話伝説
ページ数 318ページ
フォーマット 紙本(文庫)
ノンシリーズかシリーズものか? シリーズ2作目。
なぜこの本を読んだか。一巻と三巻を先にお迎えしたので、二巻も購入しました。
本の入手方法 ネット書店(Amazon)で購入。
おすすめ度
感動 ★★
面白い★★★★
人に勧めたい ★★★
驚き ★★★★
学んだ ★★★★
この本を評価するなら 88点くらい。痛々しいけれど、引き込まれるように読んでしまいました!
収録作品
スィールの娘
受賞・ノミネート情報など
不明
本のあらすじ 内容(「BOOK」データベースより)
〈強き者の島〉の王ブランには三人の弟と一人の妹がいた。〈旧き民〉の習わしで王位は彼の息子ではなく、妹ブランウェンが産む息子が継ぐはずだった。だがアイルランドの上王がブランウェンに求婚したとき、ブランの心は揺れた。妹が嫁げば自分の息子が〈強き者の島〉の王位を継げるではないか。こうしてブランウェンは異国に嫁ぎ、悲劇の種は蒔かれた。世界幻想文学大賞生涯功労賞の大家が描く壮絶な悲劇。『マビノギオン』第二話。訳者あとがき=田村美佐子
この本の感想
マビノギというと、ウェールズの神話群でエリン(強き者の島)を舞台にした、4枝からなる物語の事です。
この本はそのマビノギを、世界幻想文学大賞生涯功労賞を獲得したエヴァンジェリン・ウォルトンが、エンタテイメント小説として読みやすく書き直したものです。
日本で出版翻訳されたマビノギと言ば、井辻さんのとかすきだけどすごく読みにくいものな、という印象もあり、でもこの本は本当に読みやすくて、面白いです。
マビノギ4枝のうち、この本は第2枝、「スィールの子供たち」を描いたもの。
第1枝の「アンヌウヴンの貴公子」とはまた別の風情で、争いと哀しみの物語になっています。
この本すき! と思いました。1枝のアンヌウヴンもとても好きだったのですが、こちらの方が好きかも。
まず登場人物のなんと魅力的な事でしょうか。
スィールの子供たちの中でも、
強き者の島の王、<祝福されしブラン>のその死までを描いた物語となっていますが、
弟のマナウィダン、
その異父弟にあたる望まずして生まれた双子、ニシエンとエヴニシエンの双子の兄弟、
そうして末の妹のブランウェン。
エヴニシエンとニシエンの双子が、原典と違ってかなり魅力的に書かれていてグッときます。
この、望まれない忌々しい出生のために生まれたがために
すべてのものを憎んで、総てのものに怒り、総てのものに災いをふりまこうとしたエヴニシエンの気持ちもわかるし、
エヴニシエンとは対照的に、ドルイド的な穏やかさと知恵とすべての優しい愛情をもって生まれたニシエンが、
こう、エヴニシエンがどんなに悪いことして他の兄弟から叩かれても、ニシエンだけは弟を理解し、ただ哀しそうに愛情を示して、それがエヴニシエンをさらにいらだたせるんだけど、ニシエンの前だけでは、エヴニシエンも穏やかな顔をしたというか、ニシエンの一組の眼だけが、エヴニシエンの怒りでも憎しみでもない顔を視ることができた、
そうしてそのニシエンがエヴニシエンをかばってエヴニシエンとしてアイルランド人にぼこぼこに痛めつけられたのを視て、それをただ見ているだけだった自分に、エヴニシエンは初めて自分というものを後悔して、生涯でただ一度の偉大な善き行いをした、っていうのがこう、なんだか胸を打って、たまらないのです。
あと私は第1枝で主役を張ったプウィスが好きで、 その息子のプラデリがプウィスの色々な意味で生き写しで、
美味しい役回りだったのがたまらなかったです。プラデリみたいな人が最近好きです。
マビノギはこのプウィスとプラデリの親子が4枝にわたって登場する神話群なので(主役ではないけれど)第3枝、第4枝も楽しみです…。
お話しとしては愛ゆえの、行き過ぎた肉親への愛情ゆえの痛々しすぎるほどの哀しみと戦の悲劇なのですが、
とにかく登場人物が魅力的で、3枝、4枝未読でも、この2枝が一番の傑作なんじゃないかって思えるくらいよかったです。
スィールの子供たちの中で、唯一この世界に残された次男のマナウィダンが、第3枝でどうなるか楽しみだし、なんといっても次はプラデリが重要な位置なので、楽しみ。
心に響いたシーンなど
ニシエンとエヴニシエンの最後のシーンでしょうか。とても神話的で印象に深いです。
主な登場人物
ブラン 強き者の島の王。
マナウィダン ブランの弟
ニシエン ブランの異父弟
エヴニシエン ニシエンの双子の弟
ブランウェン ブランの妹
プラデリ ダヴェドの若き大公
こんな本が好きな方におすすめの本です。
アイルランドやウェールズの神話伝説に興味がある方に
普遍的な悲劇を読みたい方に。
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『ペガーナの神々』/ロード・ダンセイニ 著
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(2015年読書感想43冊目)
ロード・ダンセイニ 著
荒俣宏 訳
おすすめ度★★★★★(幻想きわまる素晴らしい創作神話です!)
この本の概要
アイルランドの小説家で、軍人としての経歴も持つ、第18代ダンセイニ男爵の処女作にして代表作。
同一世界観の「ペガーナの神々」「時と神々」を収録している。
ハヤカワ文庫FTの5番目の本である。
本のあらすじ
偉大なる神々の中の神々、アマナ=ユウド=スウシャイは長いこと微睡んでいる。
アマナが寝ている間、他の神々は戯れで地球を創造した。
そうして気まぐれで、人々や地上にかかわるのだ。
これは神々と人間の、夢想のような神話である。
この本の読みどころ
幻想美きわまる、夢幻と諦観の神話群。それは砂漠に咲く花のように鮮やかで儚い。
ダンセイニの創作したこの神話群、ペガーナの神々は、まるで至高神アマナが微睡む間に見ている夢のような世界であり、幻想美の極致といった文章と、淡々とした無常観ににた諦観が絶妙のバランスで混ざって書かれた傑作です。
荒俣宏さんの翻訳も端正であり読みやすく、ただただダンセイニの描く夢のような世界に、読みながら浸っていればいい。
これがこの本の楽しみ方のような気がしてなりません。
感想
ダンセイニといえば、「エルフランドの王女」を読み、その余りの意味不明な、面白いのかもよくわからない世界に挫折したという思い出がある。「妖精族のむすめ」も読んだが、正直面白いのかわからない。
ダンセイニといえば私にとって、好きだけどなぜ好きなのかわからない。しかしとても惹かれる作家、でした。
でもこのペガーナの神々は素晴らしい。
神々と人間、それぞれの役割や生きざまを夢のように、淡々とむなしく、そのために時々悲しくて仕方なくなるような、そんな筆致で描いている。
でもそれは夢であり、真実など誰も知るところではない。アマナは作者=ダンセイニ自身の投影であろうかという気さえする。
そんな物語は、砂漠を彷徨う求道者が見つけた、美しい赤い薔薇のような印象を、読者に残す。
とにかく読めてよかった。ただその一言に尽きる傑作です。
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アンヌウヴンの貴公子 (マビノギオン物語1) (エヴァンジェリン・ウォルトン)
![]() | アンヌウヴンの貴公子 (マビノギオン物語1) (創元推理文庫) (2014/02/13) エヴァンジェリン・ウォルトン 商品詳細を見る |
(2014年読書感想61冊目)
原題 Prince of Annwn
エヴァンジェリン・ウォルトン 著 田村美佐子 訳 牧野鈴子 表紙絵
おすすめ度★★★★☆(面白かったです。神話物語が好きな方はぜひ。)
「(前略)ほんのちいさなことばかりでしょう。ですがそうしたささいなものこそ、やがて偉大なものを生み出す源となるのです」(p209)
―フリアノンの台詞ー
ウェールズ地方の神話を集めたマギノギオンを、幻想文学賞で功労賞をもらったエヴァンジェリン・ウォルトンが読みやすく書き直したもの。マビノギは4枝からなっていますが、その第1枝です。
ダヴェドの大公プウィスが冥界アンヌウヴンの王であるアラウンのために東の王ハウガンと戦うことになる「冥界への道ゆき」、プウィスが愛するフリアノンを妻に迎えるために奮闘する「小鳥のフリアノン」の2部構成、プウィスを主役にした据えた物語です。
なかなか読み始めるのに時間がかかった本だったけれど、読み始めたら面白かったです。
マビノギが未読ですが、この本を読んだだけでマビノギを読んだような気分になれます。神話物の翻訳は古くて難しいものが多いから、むしろこういった本を読んだほうが読みやすいかもしれません。
最初はプウィスにあまり感情移入できなかったけれど、高潔で男気に溢れ、また感情的でありながら良き君主であろうとするプウィスは、非常に神話的な登場人物で、読み進めるうちに好感が持てました。
ヒロインのフリアノンも、意志の強い女性であり、女神たるその姿は本当に美しい。
また、物語の鍵を握り、物語を深く含蓄あるものにしているドルイドたちの存在も、とても興味深かったです。ドルイドたちの思想とその対立は、読んでいてどことなく「アヴァロンの霧」を思い起こさせました。「アヴァロンの霧」がお好きな方なら、読んだら面白いのではないかと思います。
わたしはマビノギはほとんど未読なので、この本を楽しく読むことができましたが、マビノギを読んだことある方がどういう意見を持つかも興味深いです。
何はともあれ、神話がお好きな方なら、読んで面白い本だと思います。
美しい文章、奥深い世界観、神話らしい登場人物。わたしはとっても面白く読めました。
お勧めの一冊です。
オーディンとのろわれた語り部(スーザン・プライス)
- オーディンとのろわれた語り部
- 発売元: 徳間書店
- 価格: ¥ 1,260
- 発売日: 1997/07
原題 Odin's Monster
スーザン・プライス 著 当麻ゆか 訳
お勧め度★★★★☆(民話らしい民話に仕上がっていてそういうのが好きな人には。)
クヴェルドルフは考え込んだ。魔法使いであり、戦士である女王は、どんな夫を望むだろう? 決まっている、同じように魔法使いであり戦士でもある男だ。
スーザン・プライスの、北欧神話を下敷きにした民話風の物語。そう言いつつ、ほとんど彼女のオリジナルらしいです。
スーザン・プライスといえば、北欧神話や北国を下敷きにしたお話を多数書いている作家さんで、そっちのほうの骨太な世界観と描写には定評がありますね。この作者さんの書いた「エルフギフト」とか好きでした。
魔法使いのクヴェルドルフは、とある国の女王に自分を好きになってもらうため、当代一の語り部であるトードに、自分を歌うように脅迫します。しかし、底意地の悪い魔法使いを拒否したトードは、クヴェルドルフの恨みを買い、その後死霊に悩まされることになって……。
というようなお話。
作者のオリジナルといっても、ところどころちゃんと民話民話してるところがなんとも好感触です。末子がすぐれているとか、最後の老婆に関する真実とか。
それでいて、出てくる死霊は本当に恐ろしくて怖い。でもその死霊もクヴェルドルフに利用された存在であり、トードの力によって徐々に解放されていく様子が面白かったです。
それにしてもクヴェルドルフは、名前は恰好いいのに終始悪役に徹していていっそすがすがしいくらいでした。
久しぶりに彼女の話を読みましたが、相変わらず厳しい世界観の中に生きる人々と、起こる厳しい事件の数々に、、作者の力量を感じます。でも最後はハッピーエンドで、読後感のよい1冊です。でも、ちょっと題名詐欺かも。ほとんどオーディンは出てこないかな……。
この作者さんには、もっと北欧神話を題材にした話を書いてほしいですし、紹介してほしいですね。
北欧神話が好きな方には、お勧めの一冊です。

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